地獄へようこそ

コリン・マーティン(一木久生訳)『地獄へようこそ タイ刑務所/2700日の恐怖』、作品社、2008

タイの刑務所生活の本。著者はアイルランド人で、小規模な建築関係の会社を経営していたが、詐欺話にひっかかってタイにやってくる。そこでほぼ全財産をだまし取られたのだが、詐欺の首謀者のボディガードを突き落とし、結局ボディガードは死んでしまう。当然警察が出てくるのだが、たいへんなのはここから。

タイの司法過程は汚職まみれで、すべてのことはカネでなんとでもなる。著者は、最初そのことをよく理解していなかったが、それに気がついて、故郷から有り金を取り寄せて保釈を受けようとする。ところが、著者がタイの現地で結婚した妻がそのカネを横領してしまい、結局著者は判決が出るまで刑務所に拘禁される(タイでは拘置所と刑務所の区別はないらしい)。

このチョンブリ刑務所がこの本がいう「地獄」。待遇は最悪。すえた臭いのするわずかな食事、シーツどころかベッドもないような居室、すべてのことに賄賂を要求する看守、そして刑務所内ではおそらくは看守が横流ししたヘロインが蔓延し、注射器の回し打ちで肝炎やエイズの患者が続出。

「ミッドナイト・エキスプレス」のトルコの刑務所ですらここよりはマシだろうと思えるようなすごいところ。しかも女がいない分、刑務所は同性愛の巣窟になっていて、力がない者は他の受刑者からレイプ。すごいなー。

結局著者は懲役20年を宣告されるのだが、国王の大赦や未決拘禁期間の参入で、7年半服役したところで、保釈になり、国外退去で本国に帰れることになった。これも、著者が刑務所での実情をアイルランド本国に伝え、そのおかげで外部からの支援があったからできたことで、それができない受刑者は刑務所で飼い殺し。

日本の刑務所生活の本は何冊か読んだが、さすがにタイの刑務所は桁外れ。麻薬で体をやられてしまう前に、精神的におかしくなってしまうだろう。著者は服役中に結核にかかって、医療刑務所に移されるが、この医療刑務所も相当にすごい。まともな治療はやってない。

人生間違って、途上国の刑務所に入るようなことになると本当に人生オワタになってしまいますよというおはなし。