日本の童貞

渋谷知美『日本の童貞』、文春新書、2003

「日本における童貞に関する言説史」の本。19世紀末から1920年代までの雑誌記事、および1952年から2002年までの雑誌記事を網羅的に探して、童貞に関する記事を全部集めて読んでいくという手法で書かれている。

1960年代半ばから、男の童貞が「美徳」から「恥」だとされるようになってきたという。青年誌における童貞に関する記事数も1965年から1985年までの時期に急上昇している。

著者が戦後に特徴的な「童貞言説」として指摘するのは4つ。「素人童貞」のような、売春婦相手の(著者はもちろん「売春婦」という言葉は使っていない)童貞喪失は恥、というもの。「やらはた」のような、童貞喪失は何歳までにしなければならない、という意識を植え付けるもの。童貞を病気扱いするもの、童貞は見ればわかると主張するもの。

このあたりの童貞言説史は読んでいて非常におもしろい。NHKが1999年に実施した性体験調査の結果が示されていて、30代以下の世代では、最初の性交の相手が売春婦であると答える者が急速に減っていることをみると、余計に興味深い。

新書版の本にもかかわらず、巻末に資料集がきちんとついているのもエライ。とにかく大変な作業量で、その点は著者の労苦を賞賛する。

ただし、最後のところでの著者の童貞言説に対する説教についてはいただけない。暑苦しいしつまらない。九仞の功を一簣に虧くとはこのことだろう。