孟子

金谷治孟子』、岩波新書、1966

古本屋の本棚にあったのでつい買ってしまった本だが、なつかしの岩波新書青版である。奥付を見ると、2008年で21刷。長く生き残っている本ということだ。

自分は孟子も読まないことはないが、論語ほど心を動かされるということがない。はっきり言って、孟子の猛烈な説教についていけないからである。基本的に孟子は説教相手の王様にきかれたことにはほとんど耳を貸さず、自分のしゃべりたいことを吹きこむのに懸命。しかも、「王道」とか、そんなものでは世の中なんにもならないでしょうとしか思えないことを言っている。これは聞かされる方もたまらないという感想しか出てこない。

で、この金谷治の『孟子』だが、まったく孟子に触れたことがない人に対して書かれた本で、孟子の主張をいくつかに分解してていねいに説明している。孟子論語の引用には該当の箇所のテキストが注で抜き書きしてあるので、原文を参照する場合にも便利。それはいいが、やたらと「孟子は民主主義の思想にかなうかどうか」、「孟子の主張は科学的かどうか」という問題の建て方をしているところが気に入らない。この本が書かれた時には、そういう議論が大事だったのだろうが、孟子が民を大事にしろと言ったところで民主主義のわけはないし、孟子の主張が科学の基準にあてはまらないこともあたりまえ。そんなことに頁を費やしても仕方ないような気がするのだが…。

それでも、著者が「理想主義の勝利」と言っている、孟子の晩年についての章、それから「孟子」の文献批判をしている「余論 
孟子』七編について」は非常に面白かった。ここだけでも読む価値はある。もともと自分が孟子の思想にはぜんぜん魅力を感じないのに、今でもたまに孟子を読んでいる理由は、孟子と王様たちのやりとりのおもしろさ、孟子の人間としての魅力の部分にあるので、それはこの本からも十分に伝わってくる。