袋小路の男

絲山秋子『袋小路の男』、講談社文庫、2007

さいきん絲山秋子の小説とてんでごぶさたしていた。これはこっちが読みに行くのをさぼっていただけで、絲山秋子はあいかわらずいろいろと書いている。これは近所の古本屋にあったので、買った。400円くらいの安い本はちゃんと本屋で買えばいいのだが、いちおうめったに小説は飼わない方針にしているので、と言い訳。

「袋小路の男」「小田切隆の言い分」「アーリオ オーリオ」の三編を収録。はじめの二編は対になっていて、同じ話を女のほうと、男のほうからそれぞれ書いたというもの。絲山秋子のいつものパターンで、やりそうで何もない男女関係の話。「小田切隆の言い分」で、男のほうの事情がわかるのだが、それは抜きで「袋小路の男」だけ読んで女の話だけ聞いているのが楽しいような気がする。主人公の女、明らかに変。片思いの話なのだが、女は男と恋愛関係になりたいので、折に触れて押しこんでいるのだが、男のほうはのれんに腕押しで、ぜんぜん関係が進展しない。さりとて男は女を気にしていないわけではなく、なんだかんだと思わせぶりな態度をとっている。

このくらい気を持たせるだけで引っ張られれば、女はそのうち疲れてきてよそに行ってしまうのがあたりまえ。実際女は、別の男と関係はもっているのだが、そのたびにものたりず、結局のれんに腕押し男をまた押してしまう。このなんともいえない生ぬるい感じがかなりいい。最後の場面で男の小説が二次選考を通ったお祝いと称して、男を部屋に引っ張り込んでおきながら、あいかわらず自分の方からは押し込まず「静かな気持ちだ」などとふざけたことを言っているところもすばらしい。この終わり方のさわやかさは他の小説家からは出てこない。

「アーリオ オーリオ」は、中学生の姪と文通している清掃工場に勤める男の話。姪なので、男女の話にはならないのだが、子供にちょっと押されてなんとなく気分がいい男の心中が推し量られて笑う。これもさわやかに笑えていい話。

解説は松浦寿輝が書いているが、激賞といっていいくらいべた褒め。そこまでほめなくてもいいのに。ほめついでに、おもしろかったら、今度はちゃんと単行本を買えと説教までしている。すいませんねケチで。