動物園にできること

川端裕人『動物園にできること 「種の方舟」のゆくえ』、文春文庫、2006

これは良書。動物園が何をしているか、何をしようとしているかを、主にアメリカの動物園の取材から伝える本。単行本の刊行は1999年で、この時点で書かれている部分では、「日本の動物園はただ漫然と動物を見せているだけで、何もしていないのと同じですよ」という趣旨のことが手厳しく書かれている。

それではアメリカの動物園が何をしているのかというと、ひとつが、「ランドスケーブ・イマージョン」。動物の棲息地をそのまま再現し、観覧者に自分があたかも棲息地の中にいるように思わせるような展示方法である。横浜市ズーラシアがそれに近いが、この本の文庫版のための新しい章では、アメリカの専門家から見ると「作り方が中途半端で、あれではランドスケープ・イマージョンとはいえない」そうだ。

もうひとつが、「エンリッチメント」。動物の生活環境を改善することで、動物を生き生きさせること。ただ狭い檻に入れて餌をやるだけでなく、いろいろな方法で動物を動けるようにさせること、例えばホッキョクグマの餌を生きた魚にして、プールの中で魚を取らせるようなことが含まれる。

さらに希少動物の保護や、野生復帰、人工授精による繁殖、環境教育、小さな動物園の工夫など、まめに取材して材料をとってこなければ書けないようなことがたくさん載っている。また、「アニマル・ライツ」論者や、「ディープ・エコロジー」系環境主義者といった、「もともと動物園という施設の存在そのものに批判的な立場の人」に対しても取材して、その内容を載せている。

またこの本は最初は単行本でざらっと見たのだが、この文庫版では単行本発行以後の日本の動物園事情の変化について、主に旭山動物園を中心に述べられていて、その部分もおもしろい。解説は上野動物園の飼育課長が書いていて、この本が動物園関係者に与えた影響の大きさを感じさせる。