ほんものの漆器

荒川浩和、山本英明、高森寛子ほか『ほんものの漆器 買い方と使い方』、新潮社、1997

美術品ではない、普段遣い用の漆器の本。普段遣い用といっても、そんなにお安くはない。直径12.5cm、高さ8cmくらいの椀で、1万円から2万5千円くらいになっている。この本は漆器を実際に買って使うことが前提なので、ちゃんと実物の写真とおねだんもついているのだ。

しかし読んでいくと、漆器製作にはたいへんな手間がかかることがよくわかるようになっている。木地づくり、下地作業、中塗、上塗、加飾とそれぞれの段階にいちいち時間と手間がかかる。職人へのインタビューも載っているが、「漆器の値段は手間賃です」と断言。やすい漆器によいものはないとのこと。

この前、県立美術館のミュージアムショップで、地元の美大の学生製作の漆器を買ったが、8000円くらいした。しかしこれは外側には漆がかかっておらず、内側だけのもの。美術品だからこのくらいの値段なのかと思っていたがそうではなく、材料費とわずかな手間賃だけのギリギリの値段だったのだ。実際、学生製作でも、表裏をちゃんと塗ってあるものは2万円くらいしていた。けっこう気に入っているのだが、まだ漆のにおいが抜けていないので、なかなか簡単には使えない。

続けて読んでみると、ぶつけたり乱暴に扱えばすぐに傷が入るし、漆器というのはそういう前提で大事に使うものだと書いてある。まあそりゃそうだ。自分の買ったものが外側を塗っていなかったのは、おそらく外側を塗っていなければ多少ぶつけても構わないし、それだけ安くできるという配慮あってのことだろう。内側の塗りは丁寧だったので特にそう感じた。

いつも安いものを買って、ダメになったら使い捨てる自分にはいちばん不向きな道具だが、買った器は大事に使おうという気になった。実際は器の選び方もむずかしく、安くていいものというのはないが、高ければいいものという保証もないとのこと。信用できる店で買うしかないようだ。自分の買ったものは作家の名前入りだったので、そこはたぶん大丈夫のはず。

ちゃんと作ってある漆器は傷が入っても直しながら使えるものだということも強調されている。自分の主な用途はぬるめのお茶を飲むことだが、酒を入れてもよさそうな感じ。ちょっと楽しみがふえた。