謎とき平清盛

本郷和人『謎とき平清盛』、文春新書、2011

本郷和人は本を書いてはおもしろく、口を開いてもおもしろい(放送大学の中世史の講義は、本郷和人のところだけ非常におもしろかった)、無双の中世史家である。この本は「大河ドラマ時代考証者」というのが帯の売り文句になっているが、中身を読めば、本郷和人大河ドラマに乗っかる形で自分の「史像」=歴史解釈を自在に展開している。さすがだわ。

タイトルが平清盛なので、もちろん清盛の出自や事績がネタにされているのだが、それだけでなく、権門体制論がどこまで妥当するか、平氏の本質は貴族か、武士か、平氏政権の性格は何か、といった問題に正面から答えている。その過程で、先行研究が容赦なく批判されている。とにかく読んでいて、退屈するところがない。

この本から学んだことは非常に多く、源氏と関東武士団の関係、鳥羽院没後の信西の役割など、眼から鱗が落ちることばかり。中でも、著者の「史観」である、「朝廷の叙任といった形式は、武力による実効支配=当知行の後についてくる。それが中世という時代の最も重要な性質」という議論には蒙を開かれた。

そのことを通じて先駆者としての平清盛の役割が逆に浮び上がるという構成も印象的。大河ドラマをきっかけにして中世史好きがひとりでも増えてくるといいなと心底思う。