徹底検証 日清・日露戦争

半藤一利秦郁彦、原剛、松本健一戸高一成『徹底検証 日清・日露戦争』、文春新書、2011

もとは文藝春秋臨時増刊『「坂の上の雲」と司馬遼太郎』のために行われた座談会が、紙幅の都合で全部を収録できなかったものを、新書化して全文を載せたというもの。原剛は陸戦、戸高一成は海戦の戦史家なので、その二人については、軍事史的な事実はだいじょうぶだろう。

座談会なので、参加者はざっくばらんに話していて非常に読みやすい。日清戦争にももっとページを割いてほしかったが、もともとが司馬遼太郎関連企画なので、それは仕方ないか。

前から言われていたことがあらためて確認できた、ということについて言えば、日清戦争日露戦争も、確実に勝てる目算があって始めたわけではまったくなく、むしろ「これでどうやって勝てるのか」という状況で、時間が経つとますます不利になるからという理由で始められた戦争だということ。太平洋戦争と同じ。しかも、軍部や官僚の一部が積極的に戦争のお先棒をかつぎ、メディアがそれに乗っかって後に引けなくなった状況で始められたという点まで同じ。日清戦争も、日露戦争も、その勝利は相手の弱点や失敗によるところが大きかったが、それがなければ勝てなかった。

軍事史的に興味深かったのは、ひとつには日露戦争での陸戦における火力不足、兵力不足、補給不足。これで奉天会戦まで押し込んだのが不思議というレベル。ロシア側の消極性のおかげで前進できたが、包囲殲滅はできなかった。もうひとつは、日本海海戦の「T字戦法」が、多分に偶然の産物で、戦争の後に書かれた書籍で宣伝されたことが拡大して神話化された要素が大きかったという話。しかもそのことは公刊戦史には書かれず、部外秘にされた版の戦史にしか書かれておらず、宮内庁所蔵になっていたその版が公開されたのは、比較的最近のことだったという話。「坂の上の雲」が「歴史小説」だという事実をあらためて実感した。

この本の中では、日清戦争日露戦争は「勝ちすぎ」という表現がされているが、負けた戦いから教訓をくみ取ることはできても、勝った戦いの中から次への教訓を引き出すことはむずかしい。それができなかった日本は、また博打に出て、今度はハズレてしまったということ。うーん。