ルポ 拉致と人々

青木理『ルポ 拉致と人々』、岩波書店、2011

北朝鮮に対して圧力をけている側を叩こうという青木理ルポルタージュ。取り上げられているのは、「救う会」「家族会」、公安警察、検察、安倍政権、マスメディア。

青木は、北朝鮮への圧力を「無責任で扇動的な言説」「困窮の独裁」に対する「罵声や嘲笑」と断定している。最初の章で自分が「北朝鮮寄りではない」というエクスキューズが入っているが、まあよくある日本左翼の立ち位置にいる人。

取材そのものはまめに行っていて、「救う会」元会長の佐藤勝巳や、「総連中央本部詐欺事件」の主犯、元公安調査庁長官の緒方重威らに直接インタビューを取っている。内紛の結果放逐された佐藤や、有罪判決後の緒方の発言は貴重で、読んでいてもおもしろかった。また、著者の構図、つまり「救う会」は、拉致問題を利用しようとする野心家の巣窟になっていることとか、警察の北朝鮮捜査へののめり込み、緒方らの事件の背後に北朝鮮に圧力をかけようとする安倍政権の路線があったことなどは、だいたいにおいてすでに言われていることで、それ自体に嘘があるとは思えない。

しかし、この本と青木理という人が、あまり信用出来ないのは、やっている取材や文章が露骨に自分の政治的な立場を表に出したものになっていて、結論ありきのルポになってしまっているところ。拉致問題の交渉でさんざん叩かれた田中均へのインタビューなどからは、田中の超然とした姿勢とともに、田中を利用して北朝鮮への圧力を批判したい青木の姿勢が透けて見える。

さらによくないことは、謝辞で取り上げられているこの本の担当編集者、熊谷伸一郎。この人、編集者と言うよりはただの活動家で、事実の追求よりは、政治目的の達成にばかり熱心な人。まあ、このコンビでこういう本が作られるのは自然なことだが、敵を叩いたからといって、北朝鮮朝鮮総聯が持ち上がるわけではないので、この人達、基本的なところで勘違いをしていると思う。