エネルギー論争の盲点

石井彰『エネルギー論争の盲点 天然ガスと分散化が日本を救う』、NHK出版新書、2011

読んでいて著者の論旨はどこかで見たかなと思ったら、藤和彦、石井彰『世界を動かす石油戦略』、ちくま新書、の著者だった。論旨は副題の通り、福島原発事故の後に「原発必要、不要論」がさかんに戦わされているが、ほとんどムダな議論。現実的にできることはエネルギー供給に占める天然ガスの割合を上げること、天然ガスを使った分散型コジェネレーションシステムを整備することだと言っている。

論旨自体は非常に納得がいくもので、原発の是非について神学論争などしても原発をいますべて止めろとか、今までと同じように原発建設を推進しろとかいう話には実現可能性がないし、エネルギー大量消費を基盤として現在の社会システムが成り立っているという事実(最初の章では、このことが繰り返し強調されている)は動かせないので、多少の省エネルギーはできても、エネルギー大量消費自体をやめてしまうということはできない。となれば、シェールガス革命で供給が増加している天然ガスを当面あてにするしかなく、再生可能エネルギー原子力はその補助として考えるしかないことになる。

著者の想定する論敵は、電力会社、原子力エネルギー推進派、原子力エネルギー反対派、強い環境保護主義者など、いろいろといるので、誰と戦っているのかがややわかりにくいのが難点。しかし、日本に天然ガスパイプラインが引けない理由など(要するに、電力会社が自社にメリットがないので乗り気にならないということ)、勉強になる点が多かった。エネルギー安全保障は、供給元の多様化と備蓄強化によるしかないという主張にも納得。