呪の思想

白川静梅原猛『呪の思想』、平凡社、2011

この本は年末のどこかの新聞の書評で見て、読んだのだが、まったくおそるべき本。自分はもともと古代史にあまり関心はないが、それでも少しだけ漢籍を読む。といっても、だいたいは注釈を読んでも、何を言いたかったのかがよくわかっていなかった。

この本は、梅原猛が、白川静に中国古典(論語詩経書経など)を講義してもらうという対談形式になっているのだが、中国古典をどのように読まなければいけないかということがちゃんとわかるようになっている。それが「呪」ということで、詩は呪いの言葉であり、それが礼や政治のありさまを伝えるものであったということ。現代日本の個人的な感慨を歌った詩とはまったく質の違うもの。日本でも万葉集の初期のものにはそのような様式が残されているが、時代を減るに従ってだんだんそれが消えて行く。中国では昔の形式がちゃんと残っているので、詩を理解することによって、社会のありようを知ることができるのだというおはなし。

これが白川静の該博な知識、特に文字の成り立ちについての説明をともなって、非常にクリアに説明される。しかも白川静は、日本や朝鮮の古文や西洋の古典も読んでいるので、白川静の言葉がそのまま比較社会史、比較文化史になっている。この本の企画は梅原猛が持ちだしてきたそうだが、梅原猛も日本の古文には通暁しているから、白川静から上手に話を引き出している。

白川静は鬼籍に入ったので、こういう対談(ところどころ編集者が入って鼎談になっている)はもう見ることができないのだ。まさに碩学の語りは、それ自体が芸術的な高みにいくということを体現したような本。『孔子伝』もまた読まなくては。新春早々、こういう本を読めてほんとによかった。