石に泳ぐ魚

柳美里石に泳ぐ魚』、新潮社、2002

事情があって読まなければならないことになり、読んでみた。そんなに長い作品ではないので簡単に読める。出版差し止め裁判で有名になり、この本に言及する際にはそのことばかりが取り上げられているが、それは非常に不幸なことだと思う。当然この本は訴訟を起こされた問題の箇所を削除した「改訂版」で、自分は初出時の版は読んでいないので、改訂したことでこの作品の価値がどう変わったかは当然わからないのだが。

主人公の劇作家「秀香」は、日本でも韓国でも周りとぶつかりまくっているキャラで、ある意味、「どこにも居場所がない」人。その主人公が自分から苦境を救おうとする友人が問題の「里花」。この里花もややこしい正確なのだが、なぜ秀香が里花といろいろいさかいを起こしながら、里花の境遇に踏み込んでいくのか、いまいち腑に落ちないところがある。初出時の「顔に醜いあざがある」というのは、それだけでは理由としては薄いように思うが、実物を読んでいないのでそこはなんとも言えない。

そんなに「おもしろい」という本ではないが、自分としては「秀香」のへんなキャラは、柳美里自身の変なキャラとかぶっていて、それなりにおもしろかった。柳美里はほかの作品を読んでいないが、デビュー作がこれなら、けっこういいのかもしれない。