都築響一トークショー

都築響一トークショー」、ヲルガン座、2011.11.27

昨日の吉田豪杉作J太郎イベントの興奮もさめやらぬうちに、今日は都築響一トークショー。これは比較的早くチケットが完売したらしい。まあ、この箱は客席が少ないから(全部つめても40人は入らない)。当然開演30分以上前には箱に入っていい席を確保する予定が、居眠りしていて起きたら開演10分前。タクシーに飛び乗って劇場についたらすぐに開始。時間に遅れなかっただけよかった。とはいえ、席は小さい木の椅子で、ここに3時間座っているのはなかなかにつらかった。

それはともかく、トークの内容は文句なくおもしろかった。都築響一は、広島市現代美術館で個展をやっていたのだが、「今回はそこには出せなかったエロ系のネタを中心に出しましょう」ということで、後半はほとんどエロ一色。現代美術館の展覧会でも、「秘宝館の内部を再現」という形でエロネタはあったのだが、所詮美術館ではあれが限界らしい。

とにかく、中身はおもしろすぎて、ネタを思い出すのがたいへんなのだが、とにかく笑ったのはソフト・オン・デマンドの「全裸シリーズ」。都築響一によれば、アダルトビデオはおもしろいものの宝庫であるにもかかわらず、アーカイブがまったくなく、古いビデオを手に入れるのは絶望的にむずかしいので、挑戦するのが非常に困難らしい。都築響一は、ソフト・オン・デマンドの社長と対談した際にそのことを訴えて、会社にあったマスターをわざわざ焼いてもらったそうだ。

「全裸避難訓練」「全裸水泳」「全裸バレエ」などの中で、一番感動したのが「全裸オーケストラ」。とにかく楽器ができて裸になれる人を集めて演奏させましょうという企画なのだが、音大出身者は指揮者の女の子だけ。この子も声楽科なので指揮の経験はない。あとは中学校でクラリネットを吹いたことがありますとか、そういうレベルの人。まともに楽器の演奏自体できないレベルなので、たいへんなのだ。しかも途中から「あの指揮者、エラそうだよね」「わたしたちと仲良くする気がないよね」と、団員が反乱を…。まさにリアルな「のだめカンタービレ」の世界である。「のだめ」は千秋に指揮者としての能力があるから、それでもなんとかなるが、こっちにはそれもない。メロメロになりながらなんとか一曲を演奏したところではもう感動。なんのビデオだかよくわからない。

「空中20メートルセックス」もおもしろかった。大きなクレーン車を6台集めて、空中にシートをあげて、そこに男優と女優が乗ってセックスするというくだらないもの。しかし、撮影はヘリコプターを2機出していて、たいへんなお金がかかっているのだ。男優が射精すると、バンジージャンプのように男優は落下して、ついでに地上では爆薬を爆発させるというくだらなさ。

あとは、「500人同時セックス」。これを見せる前に都築響一が、ヨーロッパの現代美術家が、町を裸の人数百人で埋め尽くすという写真を見せて、「これは芸術ですけど、こっちは」と見せられたビデオでは、250組500人の男女が広い体育館に集められて同時にセックス。しかも動きはちゃんと指示されていて、タイミングをあわせて全員が同じプレイをしている。「こっちのほうがいいでしょう?動いてるし、やってることもおもしろい。アートはエロビデオに負けているんですよ」というのが都築響一の締め。

ほかにもおもしろいものが山ほどあったのだが、心に響いたのは、あるアマチュア写真家のエピソード。都築響一はもとは写真の人だが、「写真誌はどれもつまらない写真だらけ」という。富士山、子供、動物、SLみたいな、どこかで見たような写真ばっかりだという。そこで都築響一大竹伸朗が、二人で投稿された写真を審査したところ、グランプリを与えるべき人物が二人いた。その一人と、それから付き合いが始まったのだが、その人は大阪の大金持ちで、写真は完全に趣味。資産管理だけが仕事なので、時間は腐るほどある。その人が銀座の高級画廊を借りきって個展を開き、著名写真家を呼んだところ、「あなたは、たくさん撮るよりも、その中からいいものを一枚撮ることに集中したほうがいい」とアドバイスをされたという。しかしこのおじいさんは、そんなことはまったく相手にもしなかった。「いい写真を一枚だけ撮るのはプロがやること。自分は好きな写真をたくさん撮りたいだけだ」と言い放ったという。

都築響一はこれを聞いて、「負けた」と思った。「いい一枚」を撮ろうとするのは、それで食べていなかなければならないプロに必要なだけであり、アマチュアはそういうことに気を遣う必要はないからプロとアマチュアは、その土俵では勝負にならないのだという。そのおじいさんの写真をいくつか見せられたが、湯水のようにお金を使っている(女性写真しか撮らないらしい)にしては、全然エロになっておらず、むしろ突き抜けたところだけがそそりたっているというもの。

都築響一は最後に、「他人の言うことは一切聞くな」「みんなはアートという包み紙に入っているものだけをアートだと思っている。包み紙ではなく、中身を見ろ」と言っていた。これは胸に刺さった。