官僚の責任

古賀茂明『官僚の責任』、PHP新書、2011

むちゃくちゃ売れている本だが、読んでみるとそれも納得。官僚がどういう原理で行動しているか、何が問題なのか、どこをどう変えれば解決できるのか、ここまでわかりやすくはっきりと書いた本がこれまでなかったからだろう。

官僚の行動原理については、これまでにも政治学者が説明してきた。だから内容そのものには驚かないのだが、著者は外から見ていた人ではなく、中の人だから、事例の提示ひとつをとっても説得力が違う。中央省庁の官僚制が「どうやってやる気のある人材をダメにしていくのか」というしくみをちゃんと書いている。

ここに書かれている官僚制の問題が日本だけのものとは思わないが、問題の性格は同じでも官僚制自体の力が強い分だけ、その影響は絶大だ。財政危機も、生産性のないところで金をジャブジャブ使うシステムがあるかぎりは、税金を上げてもどうしようもない。新しく取った分だけ、生産を生み出さない分野に使ってしまうからだ。著者が「ちょっとかわいそうな人は救わない」、「守られている人は救わない」と主張している部分には非常に納得。要するに、生産性は低いが政治力のあるセクターに対する保護が強すぎて、その分野(農業、医療その他)では新しいことが何も出来ず、莫大な金が無駄に使われているということ。

格差社会」とか、「ネオリベ」とか、つまらないレッテルを貼っては、生産性の向上を再分配問題にすり替えてきたのが小泉政権以後の日本政治だったことを考えれば、著者の指摘は重要。著者のような人間をちゃんと働ける環境におかなければ、民主党だろうと自民党だろうと、誰がやってもダメだろう。