中国「反日」の源流

岡本隆司『中国「反日」の源流』、講談社、2011

江沢民の話やら、中国のネット掲示板の話をしているわけではぜんぜんなくて、日中の近代化過程を比較している本。あまり「現在」の話は出てこない。しかし、近代史のパスの違いが、日中間の摩擦を引き起こす原因になっていることはよくわかる。

中でも一番なるほど、と思わせられたのは、日本と中国では社会と権力の関係のあり方が違うという話。日本の権力は社会に深く浸透しており、社会とからみついて税金を絞ろうとする。それに対して、中国では、権力が社会と切り離されている。権力は社会にあまり浸透せず、税金も取れるところから取っているだけ。権力は税金が取れていれば社会のことなどどうでもよく、社会も権力と税金以外の点で関わり合いを持っていない。日本のように、なるべく税金を取れるように社会を育てていくという考え方はないのである。

そういうことが近代になってから西欧の外圧に対する日中の反応の違いにつながっていく。日本のように、革命と社会改革を行うことによって外圧に対抗する、あるいは外圧を受け止められるような社会をつくるという戦略は中国には取れなかった。取ろうとした者もいたが、結局はダメ。中国の指導層(たとえば李鴻章)は、次第に日本を脅威と見なすようになっていく。西欧は遠いが、日本は隣国。清朝が何もできない状態で日本が強大化すれば、結果はおそるべきことになると考えたのだ。

いろんなところで発見の多かった本。歴史学者の叙述にしてはかなり大胆なことをやっていると思うが、そこがおもしろい。