官僚との死闘七○○日

長谷川幸洋『官僚との死闘七○○日』、講談社、2008

雑誌、ネット、テレビ、そして新聞と健筆を振るう長谷川幸洋の「安倍政権内幕もの」。まあ、とにかくおもしろい。長谷川は取材というより、自分自身が安倍政権の改革政策のアクターとして、実際に政治の渦中で動いているので、ふつうのジャーナリズムのスタイルではない。しかし、一部の人名が匿名になっている以外、現嘉悦大学教授の高橋洋一をはじめ、ほとんどの登場人物は実名で、しかも権力闘争の内部にいた者にしか書けない内容になっている。ジャーナリズムと回顧録の中間のようなもの。

官僚と政治家、メディアの関係について、誰が誰をどう利用し、あるいは操縦しようとしているか、それぞれのアクターの基本的な武器と資源は何なのか、ということを縦糸にして、具体的な政策課題にアクターがどう絡んでいくかを横糸にして、政策過程と権力闘争がどう結びついて動いていくのかということが立体的に描かれている。分析的な本だが、これは学者には書けないような種類の本。著者の記事にはどれも何かしら、教えられるところがあるが、この本からも学ぶところ大。

政策と権力が両方切り離せないところで現実の政治が動いていることをあらためて教えてくれる。その点でほとんどの学者の本も、メディアの記事も、二つのことを切り離してしまっている時点で失敗している。やはり素人がふつうに新聞やテレビを流し読みするだけでは、プロ(権力闘争の渦中にいる人)がわかっているような大事なところはわからない。