名前とは何か なぜ羽柴筑前守は筑前と関係がないのか

小谷野敦『名前とは何か なぜ羽柴筑前守は筑前と関係がないのか』、青土社、2011

こちらもあっちゃんのエッセイ。ネタは名前だが、基本的には武家官位の話に関心が向いているのでこういうタイトルになっている。最初の三章、「武家官位」について、「氏」と「姓」、諱と訓みと、がそれにあてられているが、そこはそんなにおもしろくはなかった。日本史好きの人なら知らない話ではないし、もちろんあっちゃんは学術文献にもあたっているのだが、それなら歴史家の書いた個別の本を読めばいいのでは、と思うので。といっても「諱と訓みと」の章は知らないことがいろいろ書いてあったので、ここはおもしろかった。

同じ調子で「一苗字、一名の近代日本」の章もおもしろく読めたのだが、一番笑ったのは「匿名とは何か」の章。ここであっちゃんが何を書いているかというと、匿名で他人を批判することを徹底的に貶しているのである。それはあっちゃんの持論なので驚かないのだが、あいかわらず2ちゃんとか、アマゾンのレビューやウィキペディアの匿名性もお気に召さないらしく、けちょんけちょんにやっている。

さらにあっちゃんの周囲にいる匿名でものを書いたり、匿名で批判したりする人もガンガン取り上げられており、こっちはあっちゃんがどれだけ他人から恨みを買っているかがよくわかる内容。宮台真司が東大の図書館から借りた本を返していないので、こらしめのために署名をブログにアップしたらプライバシーの侵害で文句が来たという話には爆笑した。当然あっちゃんは、そんな文句は認めておらず、大学図書館でどんな本を借りたかということはプライバシーにはあたらないし、借りた本を返さないのは泥棒だ(そりゃそうだ)と主張している。

あっちゃんはネット上で匿名で批判されるのが気に入らないのなら、無視すればいいと思うのだが、ネット上の言論を無視してなかったことにする態度自体が許せないらしい。こうなると半分病気みたいなもので、自分のことをついつい検索してしまい、結果、どんどんストレスがたまるようなことになるだろう。これは精神衛生に悪そうだと思う。