原子力ルネサンス

矢沢潔『原子力ルネサンス エネルギー問題の不可避の選択』、技術評論社、2008

いま読むと非常に味わい深い本。スリーマイル島原発の探訪記からはじまって、「環境保護論者の(再生可能エネルギーの拡大を支持する)主張は骨董品」という説が紹介され、スウェーデンとドイツの「脱原発政策」がいかに看板倒れかという話がつづき、第3世代、第3世代プラスの原子炉の技術的発展が解説される。最後は日本のエネルギー生産における原子力の比率が今後、50パーセントを超えるだろうという予測が開陳される。

いちおう科学ジャーナリストが書いているので、技術的にむちゃくちゃな話が書かれているわけではない。原子力ルネサンスが実際に語られてきた理念で、その支持者は世界レベルではたくさんいることも確か。しかし2011年3月以後は、この本に書かれている主張や分析の多くが日本社会から受け入れられないものになってしまったことは明確な事実。何より、原子力発電の技術的な危険性についての評価がちゃんと書かれていないというのが象徴的。

原発を全部すぐ止めろという主張が実現できるとは思っていないし、再生可能エネルギーの将来に楽観的な主張はうさんくさいとも思っているし、この本を最初に読んだのは福島事故の前なので、その時点ではそれなりに納得していたのは事実。とはいえ、この本を読んでみると、わずか半年の間にエネルギー政策を議論する環境が完全にひっくり返ってしまったという現実は消せない。

技術と社会の関係について考えるよい機会になりました。その点、著者には感謝している。