戦争遺産探訪 日本編

竹内正浩『戦争遺産探訪 日本編』、文春新書、2007

これはなかなかよくできた本。最初の部分は「日本のいちばん長い日を歩く」となっていて、半藤一利『日本のいちばん長い日』に出てくる場所を順番に歩いてみよう、という企画。東京都心部なので誰でも行けるところだが、歩いてまわろうとすると一日がかり(市ヶ谷の防衛省=旧大本営陸軍部は、そこだけで半日かかる)で、当時の状況を残す建物や遺跡は、あらかじめ知っていなければわからないので、非常に便利。半藤著に出てくる場所と出来事を時間表にして並べていたり、場所の写真もちゃんと掲載していたり、とにかくまめ。

それでも東京近郊だけだったら、行くのも調べるのもなんということはないが、北海道から九州まで全国を回って、明治から太平洋戦争敗戦までの軍事遺跡をまめにまわっている。地図や写真が豊富に載っているので、行ってみたい場所のおよそのあたりをつけるのにとても役立つ。自分は、これで広島湾要塞と芸予要塞の遺跡に行ってみたが、要塞遺跡は島ごとに点在しているので、出かけるのもけっこうたいへん。著者はちゃんと自分で出かけているのでえらい。

また単に遺跡に行っているだけでなく、遺跡がいつできて、いつ放棄されたのか、なぜいままで残っているのかといったことをていねいに調べているところもありがたい。旧軍施設は、メジャーなところは別として、そういうことを調べるのがけっこうたいへんなのだ。

あと、この本が好ましく思われるのは、この手の戦争遺跡を紹介する本にままある「押し付けがましい平和主義」のウザさがないところ。著者は単純に、古い戦争遺跡に美的な魅力を感じて探訪を続けている趣味の人なので、そういうところはわざと飛ばしてある。

「日本編」と銘打っているわけなので、もしかすると外地(朝鮮、台湾、樺太その他)の戦争遺産探訪も計画に入っているのかもしれない。そうだといいな。同じ著者の『軍事遺産を歩く』も面白そうなので、今度手に入れてみなければ。