ネルケ無方 「迷いながら生きる 禅の知恵」

ネルケ無方「迷いながら生きる 禅の知恵」、朝日カルチャーセンター横浜教室、2011.7.31

ネルケ無方師の講演が横浜であったので、他の用事にひっかけて行ってきた。これは午後からのプログラムで講演と質疑応答。別に午前のプログラムがあり、そちらは座禅会。座禅会も参加したかったが、これは早い時期に満員になってしまったのでアウト。この午後からの講演も、申し込んだのは3週間ほど前だが、行ってみると満席だった。大人気だなー。

まず自分の生い立ちや禅僧としての経験、安泰寺での生活について話すのが前半。真ん中に10分ほどの椅子禅をはさんで、その後、禅についての宗教的な話があった。講演は約90分。生い立ちその他の部分はNHK教育テレビでのプログラムで放送したものや著書とあるていどかぶっていたが、安泰寺の生活の部分は多くのスライドを見せながら話していて、この部分ははじめて聞いた。

すごいところだというのは、本や放送でも言っていたが、冬の積雪はただごとではない。地球温暖化などまるっきり関係ないみたいで、但馬地方の山奥は二階建ての建物の一階部分が全部雪で埋まるくらい積もっている。いや、新潟や山形ではむかしは4メートルくらい積もっていたということなので、これでも少なくなったのかもしれないが、これくらい降ると雪かきを毎日しなければ建物が潰れてしまうとのこと。また最寄りのバス停まで4キロあるが、雪の積もっているときに4キロを歩くと半日かかるそうだ。つまり、外にモノを買出しに行くと、それだけで一日潰れてしまうということ。軽い物ならともかく、重い物は持って帰れないだろう。生活そのものが修行というのはこういうことか。

宗教的な話の部分は、あいまいなところや神秘的な部分はなく、非常に明晰に語られていた。ネルケ師は仏典や道元の著作を多く、英語やドイツ語に訳しているので、そのこともあずかっているのかもしれない。非常にわかりやすく、示唆にとんだ話。

90分のプログラムを終えて質疑応答になったが、1時間ほどたっても質問が途切れないので最後はカルチャーセンターの人が割って入って打ち切りにしていた。しかし、師はどの質問に対しても非常にていねいに、そしてここでも明晰に答えていた。もちろん知らないことには知らないと言うのだが、修行者が直面するさまざまな問題に対して、自分の中できちんとした理屈をもち、かつそれを実践している人ならではの答えがあった。「迷いながら生きる」というタイトルにはなっているが、その迷いとはあいまいなものではなく、考えを煮詰めた上でのものであり、修行に対してごまかしのない真摯な態度でのぞんでいることが明確にわかる内容。

全部で2時間半ほどの話になったが、非常に濃い話で、聞きに行ってよかったと心から思う。プログラムのあとで多くの参加者が著書にサインをもらうために並んでいたが、次の予定が押していたので、これはあきらめた。このことだけが心残り。