大丈夫。がんばっているんだから

渡井さゆり『大丈夫。がんばっているんだから』、徳間書店、2010

この前にNHKのドキュメンタリー「追跡A to Z」で放送されていた、養護施設出身者の助け合い施設のリーダーが書いた半生記。こちらも親は死んでいるのではない(正確には父親はすでに死去、母親は存命)のだが、母親にはまったく育児の意思がなく、施設行きというケース。

「ベランダで猫を殺していた父」といった刺激的な章題が並び、さらに内容はもっと深刻。まあ、性格が破綻していて、経済的にも立ちゆかない人同士が結婚すると、お互いにストレスを攻撃性に代えて相手に酷い仕打ちをするようになり、さらにその標的は子どもにも及ぶという悲惨な話。

それ以外も、施設内での子ども同士による性的虐待とか、学校でのいじめ、愛情欠乏感、そこから来るややこしい男性関係などなど、著者は、可能性のある範囲の苦労は全部している。この本を書いている時点では、ちゃんと結婚もして子どももでき、「生きていてよかった」と言っているので、ハッピーで何よりだと思うが、この環境でよく真人間として成人できたなあとおどろくばかり。

著者はたまたま機会をつかんで人生を立て直すことに成功したわけだが、この生育環境では、普通の人は転落の道をまっさかさまだろう。養護施設というところで育つのが、その中にいるときも、卒業してからも、こんなに大変なものだとは知らなかった。著者は施設職員に虐待されたりしていたわけではないのだが、親の愛情抜きに、仕事として育てられるのは子どもにとっては相当の欠如感とストレスがたまるものらしい。

親がいてまともに育てられているということは、それだけで贅沢なことらしい。著者は親を恨んではいないのだが、もう親とは関わり合いになりたくないようだ。親子関係についていろいろ考えさせられる。