もうひとつの核なき世界

堤未果『もうひとつの核なき世界 真のCHANGEは日本が起こす』、小学館、2010

図書館の新刊コーナーにあったので借りてきた。核兵器問題の本、といいたいところだが、内容はバラバラ。最初の章は劣化ウラン問題。それって核兵器の話と別なのでは・・・。それからアメリカの歴史教育(要するに広島、長崎爆撃の話をどのように教えているか)の話、3章になってから、やっとアメリカの核政策とそれに対する外国からの反応についての話になる。ところが4章は日本の反核運動や被曝者掩護運動の話。いったい何がいいたいのか、意味不明。

いや、著者の言いたいことはだいたい推測はつく。劣化ウラン問題は現在起こっている核被曝の問題だからそれこそが核問題。アメリカの歴史認識は、そうした劣化ウラン問題やアメリカの核政策のバックボーンになっている、日本の反核運動や被曝者掩護運動は、オバマの「核なき世界」論を乗り越える現実の一歩になる可能性がある・・・というようなことが言いたいのだろう。

しかしはっきり言って、著者の思い込みと一方的な主張への肩入ればかりで、読んでいて辟易させられる。劣化ウラン問題は、「その疑いはあるが、疫学的な証明はされていない」話である。だったら、劣化ウランが病因だとする説を否定する側の根拠を調べるなり、話を聞くなりすべきだと思うが、そういうことは何もされていない。歴史教育の問題も、なんだか市場原理批判みたいなことにすりかえられている。きわめつけは日本の話で、日本の高校生が核兵器や戦争に対して幼稚な感想をもったところで、そんなものが核政策に何か影響を及ぼすのか?高校生がそういうことを勉強するのが悪いとは思わないが、そんなものをよいしょしたところで、何も出てきませんよ。「真のCHANGEは日本が起こす」とか、アホとちがうか。

あと、核政策の問題などいろんなことについて、当事者や専門家の見解ではなく、そのへんにいる普通の人のインタビューをいちいちとるような方法も疑問。まず統計調査を調べるべきだし、数人か数十人かの普通の人の意見は、全体的な世論の代表ではありえない。

手間を掛けて取材をしているのはわかるが、こういう理由でほとんど価値のない本。この著者の本がどうして持ち上げられているのか、ふしぎでしょうがない。