ネット帝国主義と日本の敗北

岸博幸『ネット帝国主義と日本の敗北 搾取されるカネと文化』、幻冬舎新書、2010

著者の主張はかんたんに言えば、現在のネット産業の構造は、「プラットフォームレイヤー」(グーグルなどの検索サービス、SNSなど)が、「コンテンツレイヤー」(新聞、テレビ、映画、音楽などのコンテンツ提供者)や「インフラレイヤー」(NTT、ケーブルテレビなどの回線サービス)から利益を搾取する寡占市場になっていて、プラットフォームレイヤーを支配しているのはアメリカの企業、このままだと日本のコンテンツ提供者はアメリカのプラットフォーム提供者に全部搾り取られることになる、というもの。

部分的には著者の言っていることはわかる(例えば、クラウドサービスなど、下手に手を出せば機密情報がアメリカに全部抜かれちゃいますよ、というような話)が、ではどうしろと言いたいのか、そこのところがあまりはっきりしない。いちおう、「日本でも流通独占が可能な企業をつくって、失われた超過利潤を取り返す」か、「流通独占はあきらめて、プラットフォーム提供者との間で適切な収益の分配ができるようにする」か、どちらかしか方法はないと言っている。著者の考えは後者に近いようだ。

しかし、それを実現するためにはどうするのか、具体的にはどういう仕組みを作るのか、についての具体的な議論がない。これでは読んでいる方ははしごを外されたような感じがする。しかも、著者の言っていることは、やり方によっては消費者の利益を削って、新聞、テレビ、音楽会社などの既得権益を擁護することになりかねない話。内容的に重大なことを言っているわりには、ボリュームが薄い(210ページしかない)本で、もうちょっとちゃんと議論をまとめてから本を出して欲しいと思う。