酔いがさめたら、うちに帰ろう。

鴨志田穣酔いがさめたら、うちに帰ろう。』、スターツ出版、2006

ちょうど映画になっている鴨志田氏の遺著。この本を出してから一年ほどして亡くなったのだから、人間死ぬ時はあっという間である。実際、この本の最後のほうでがんで余命一年と告知されていて、そのとおりになったわけである。

というのはオチの部分だが、それは最後のとどめで、すごいのは著者のアル中の様子と、精神病院の中の生活。アル中というのがこんなにすごいのか、というのはこの本ではじめて知った。アル中といえば、吾妻ひでお失踪日記』で、ある程度アル中生活は知っていたつもりだったが、これを読んでしまうと、吾妻ひでおは(意図してのことかどうか知らないが)、かなりマイルドにアル中を描いているように思う。

こちらのアル中はほんとうに半キチガイで、完全に生活をすべて酒に支配されている状態。わたし自身は、若い頃でもそんなに飲んでいないし、年を経るごとに酒量も減っているので、著者の飲んでいる量にはあきれるばかりだが、「浴びるように飲む」というのが比喩に感じられないくらい大量に飲んでいる。このくらいだともはや二日酔いなど関係ないらしく、消化器に穴があいて、どんどん吐血しているのだが、それでもやめる気配はなく、朝と言わず昼と言わず、起きているうちは酒を飲みまくりの生活。これでは癌になったところで、文句は言えないだろう。

結局精神病院に入れられることになるのだが、ここがまた大したところで、アルコール病棟といえど、りっぱなキチガイ病院である。酒に支配されている人間というのはおよそまともな行動を取るような人じゃない。医者も看護師も、こういう患者を相手にしているのだから、それだけで精神科というのはすごいものだと思う。

最後は、癌告知をされた後、精神病院を退院することになり、病院の発表会で、著者が自分の半生を振り返るところ。小説という体裁をとっていることもあるのだが、ここもなかなかすごい。人生いろいろあるなあということをしみじみ感じる。アル中の道は一日にしてならず。人生にいろいろ酒に追い込まれるだけの理由があってみなさん、酒に溺れていらっしゃるわけである。酒飲むくらいだったら、医者に行って安定剤を処方してもらうとか、もうちょっと安全度の高い方法があるような気もするが、酒は手近だからやっぱりみんな飲んじゃうのか。酒に弱くてよかった、としみじみ思った。