本を彩る美の歴史

「本を彩る美の歴史 本をめぐる<雅の世界>と<優美の世界>」、ひろしま美術館

この美術館が「公益財団法人」になった記念と、今年が「国民読書年」だということで(「ブックスひろしま2010」もからんでいるそうだ)、「本」の展覧会。

最初は平家納経。あいかわらず美しいのだが、これはまあ何回も見ているので、特別に感慨というものはなし。

しかしここからがすごく、グーテンベルク聖書(42行聖書)に始まって、15世紀から16世紀にかけての初期の活版印刷本、トマス、プリニウスユスティニアヌスセネカユークリッド、ダンテ、ルター、コペルニクスプラトンガリレイデカルト等々、教科書に名前が載っている人たちの最初の印刷本がどんどん出てきた。これは全部広島経済大学所蔵の本。どんだけお金持ちなんですか。しかもめったに展示はしていないらしい。本の保存を考えればかんたんに外に出せるものではないと思うが、なんだかねぇ。

しかもこの大学の稀覯本はそれだけではなく、19世紀から20世紀初期のプライベート・プレス(私家版と大量生産本の中間にあるような手作りの美本)の本がぞろぞろと並ぶ。「世界三大美本」と称する、エリス『チョーサー著作集』、『欽定訳聖書』、『ダンテ著作集』から、ウィリアム・モリスラスキンらの本が並ぶ。まあ、本というより美術収集品だが、こんなりっぱなコレクションを田舎の大学に死蔵しておいていいのかなあ。いちおう三巻本の「目録」が一冊5000円で売られていて、内容を考えれば別に高くはないのだが、写真に撮ってウェブで公開したりしたほうが、大学の宣伝にもなるし、はるかに意味のあることのような気がするのだが。

自分が個人的にいちばん惹かれたのは、この稀覯書コレクションではなく、小磯良平の「聖書のための挿絵」。小磯良平は自身がクリスチャンだったということもあって、日本聖書教会の依頼で新旧両約聖書のために32枚の挿絵を描いた。その原画とデッサンである。これは非常によい。「うまい絵」ということではなしに、ちゃんと聖書のそれぞれの場面にきちんと合うように、挿絵としての役割を十分に果たすように描かれている。

だいたいわたしでも知っている有名な場面ばかりで、「エデンの園」「バベルの塔」「イサクの捧げ物」「十戒を授かるモーセ」「イエスを拝する三博士」「中風の人を癒すイエス」「よきサマリア人」「最後の晩餐」「十字架を運ぶイエス」「復活」「サウロの回心」等々。原画はみな水彩と墨。聖書を読んだことがある人であれば、非常に胸に響くと思う。さすがは小磯良平

館内の売店で売っていたこの聖書が5400円。聖書は持っているので絵だけに払うのは高いなあと思っていたら(罰当たり)、挿絵だけ抜き出して、その場面の聖書の文句を抜粋して載せた本(この挿絵のための展覧会図録)が1400円で売られていたので、もう買ってしまった。よいものをゲットできてよかった。