紙屋悦子の青春

紙屋悦子の青春」、原田知世永瀬正敏松岡俊介ほか出演、黒木和雄監督、バンダイビジュアルテレビ朝日ほか製作、2006

黒木和雄の遺作で、「反戦映画」ということになっている本作だが・・・。

それぞれの役者の芝居は非常にうまい。原田、永瀬、松岡のほかには小林薫本上まなみしか出てこない。ほぼ室内劇のような映画。演出も、はっきりした直接的な感情表現を避けて、細かい所作や間や小道具をうまく使って、台詞にのらないこともよく語らせている。

特に主役三人のやりとりは、口に出さないところでそれぞれに意思が行き渡っているという、非常に「日本的」なコミュニケーション。ここがちゃんと描かれているところが、このお話のよくできているところだと思う。

原田知世が自分の思いをおはぎにこめているところなど、ちょっと古い時代の日本映画を思い出す。基本的には良作だと思う。

ただ、冒頭の回想シーンで原田知世永瀬正敏が「戦争反対」みたいなことを直接口にすることには違和感が。そもそも、彼らの話がドラマとして美しくなっていたのは、戦争という状況で、結婚といえども命のかかったことになっていたからだろう。ある意味、戦争があるから美しい思い出になっているわけで、これで戦争など関係なければ話の迫力は半分になってしまう。

そこのところに目をつぶって、「戦争は悲惨だからないほうがいいですよね」と当事者に後から言われてもねぇ。作劇の立っているところが基本的に違うような気がするのだが。