希望難民ご一行様

古市憲寿『希望難民ご一行様 ピースボートと「承認の共同体」幻想』、光文社新書、2010

これは、ピースボートという団体ってどういうものなの?という興味で読んでみたのだが、けっこうおもしろかった。内容は著者の修士論文を本にしたもので、著者自身が2008年に実際にピースボートの世界一周クルーズに乗り込んで調査した結果がもとになっている。

読んでみるとピースボートに集まっている人々の多くは毒にも薬にもならない非常に無害な人々で、ちょっと勘違いしているところはあるが、せいぜいその程度のものだということがよくわかる。また、ピースボートというこのプロジェクト自体が、おかしな希望を持って集まってきた人たちを無害化するためのちょうどよい仕組みになっていることもわかる。

当然と言えば当然のことだが、ピースボートのようなけっこうな規模のプロジェクトを毎年続けるのであれば、あまり政治性を強調して人を集めることは無理なのである。そこで平和とか環境とか、どうにでもとれる無害なスローガンと世界一周体験という餌で参加者を集めて、そこそこ上がり下がりのあるいろんな体験をさせて帰す。乗った人々にはいい思い出(一部の人々にとっては、まともなクルーズ旅行として成り立っていないという意味で不快な思い出)を残して終わる。乗った人々も変わらないし、もちろんそれが社会運動になるとかそれで社会が変わる契機になるというようなものは何もない、ということである。

それはそれで構わないし、おかしな夢を煽り立てて結果として不幸な人をたくさん作り出すよりは罪がないのではないかというのが著者のスタンスで、それには非常に納得させられる。

以前に乗船して、あまりにも待遇やスケジュールがデタラメなことに怒っている人のウェブサイトを読んだことがあり、実際はどうなのかと思っていたが、確かに普通のクルーズ旅行と思って乗ると「金返せ」といいたくなるようなことが起こっていたのは本当のことのようだ。さらにひどい話、クルーやツアー企画者のピースボートに船内で抗議しようとすると、コピー機の使用を拒否する等の形で妨害がくるという話。ツアー内容への抗議程度のことすら抑圧しておいて、世界平和も憲法九条も何もないだろうと思うが、ピースボートも、世の中に普通にある組織だと思えば、乗っていない人にとっては別に腹も立たないだろう。

巻末に本田由紀の「解説と反論」なるものがついている。納得するところもあるが、著者がまえがきで評している「本人は軽やかなつもりらしいが、暑苦しさは隠せない」という一言で言い尽くされていると思えるような文章。社会改善志向の人はどうしても暑苦しい話をしないではいられないらしい。

わたし自身は、安いクルーズだと思えば時間があれば乗ってもいいかなと思っていたこともあったが、この本を読んでそういう気持はきれいさっぱり消え失せた。他人の自分探しの旅につきあって大金を払うのはまっぴらだ。どうせ楽しむのなら、まともなお楽しみを提供してくれる旅に行きたい。