私はなぜ麻原彰晃の娘に生まれてしまったのか

松本聡香『私はなぜ麻原彰晃の娘に生まれてしまったのか~地下鉄サリン事件から15年目の告白~』、徳間書店、2010

麻原彰晃の四女にあたる著者の手記。オウム事件関係の本はほとんど読んでいないので、非常に新鮮な印象を受ける。

とにかくややこしい教団内、家族内の人間関係が印象的。麻原と正妻の松本知子の間には四女二男がいるが、彼らの関係がまずややこしい。麻原や松本知子は普通の育児をしておらず(子供はほとんど放置状態)、麻原逮捕後は麻原の後継者に誰を立てるかをめぐって教団幹部や信者たちがそれぞれの子供にくっついて派閥対立のようなことをしているので、姉弟間の関係も普通でない。

著者は1989年生まれ。事件の時はまだ子供だったので事件や教団のことについてまったくわかっておらず、15歳の時になってから、自分でいろいろ調べ始めて事実を知るようになったと言っている。2005年から家を出て、江川紹子の世話になったり、教団関係者の世話になったり、ホームレスを経験したりして、波乱の多い生活を送っているようだ。精神的にも問題を抱えているらしい。

この本は書き下ろしのようなので、編集者の手が入っているだろうと思うが、いろいろなエピソードが取り上げられていながら、本の内容は整然としており、著者が秩序立てて考えを整理できる人だと言うことがわかる。

本の内容で興味をひくのは、麻原本人ほか、家族、教団幹部らに対する著者の観察。裁判にかけられている教団幹部と著者は差し入れなどの形で連絡をとっており、彼らがどのような生活を送っているかの一端がわかる。その描写もかなり生々しく、麻原や教団幹部の人柄に間接的にせよ触れられるようになっている。

オウム事件は現在の裁判がすべて終わり、刑の執行が終わったとしても、まだ終わらないことがわかったのが収穫。