戦国軍事史への挑戦

鈴木眞哉『戦国軍事史への挑戦 疑問だらけの戦国合戦像』、洋泉社歴史新書y、2006

戦国期の軍事史について、まめに著作を発表している著者による、「これまでのまとめ」的な本。戦国期の軍事史で「わかっていること、わかっていないこと」を整理してある。

内容は、軍隊の編成(動員数、個々の部隊の人数、戦闘員と非戦闘員の比率)、兵種区分、兵士の装備、動員や訓練の方法、戦闘の様相、功名の類型とその認定のしかた、死傷者とその原因、といったことにわたり、今日の軍隊ではあたりまえのようにわかっていることが、戦国期の合戦についてはわからないことだらけであること、それにもかかわらず、映画やテレビはもちろん、専門の歴史家までがそうしたことを「あたかも既知のように」フィクショナルなイメージで勝手に作ってしまっていることが強調されている。

著者のこれまでの著作と重なっている部分もあるが、そうでない部分(特に、戦闘員と非戦闘員の区別とその比率、功名の認定、死傷者の数とその理由)もけっこうあり、非常に面白く読めた。首取りが戦功認定に非常に重要で、そのことが戦闘そのものの邪魔になっていたことは多少は知っていたが、その程度がこれほどとは思っていなかったし、死傷者のほとんどが鉄砲、弓矢、石つぶてを合わせた飛び道具によること、鉄砲による死傷の増大、投石の重要性などといった部分も面白かった。

よくわからないのは、この人の業績は歴史学界でどのように評価されているのかということ。軍忠状などの一次資料をまめに当たっているので、方法論的には確実に思えるが、著者は自分(と、ほか少数の歴史学者)が言っていることが、いまだに学者の中できちんと認識されていないことに繰り返し不満を訴えている。

戦国期を専門にしている学者なら、もっと軍事史的な興味を持っていてもいいはずだと思うが・・・。