クラウゼヴィッツ 『戦争論』の誕生

ピーター・パレット(白須英子訳)『クラウゼヴィッツ 『戦争論』の誕生』、中公文庫BIBLIO、2005

クラウゼヴィッツの伝記。著者は、スタンフォードの先生で『戦争論』の英訳を出しており、ナポレオン戦争前後のヨーロッパ史に関する論文もある専門家なので、内容は濃い。

訳者が内容を編集していて、『戦争論』の形成と内容に関する章は巻末に持ってきていて、それまでの章はクラウゼヴィッツの生涯を、ナポレオン戦争プロイセン国家の状況などの当時の時代背景に関する細かい事実の積み上げの上に描いている。確かにこちらのほうが読みやすい。

プロイセンがなぜフランス軍に簡単に敗北したのか、クラウゼヴィッツはそのことにどのように向き合ったのかが、『戦争論』の形成に決定的な影響を及ぼしたことがよくわかるように書かれている。クラウゼヴィッツの経歴が、前線指揮官としてはいまいちぱっとせず、国王にあまり好かれていなかったこともあって大成功とは言えないものの、途中で勝手にプロイセン軍を離脱してロシア軍に入隊するようなことをしていながら、なんとか将軍まで昇進できたという意味ではそれなりに成功したものだったことが指摘されていて納得。大出世していれば、『戦争論』を執筆する時間的余裕はなかっただろうし、それなりの地位に昇ってプロイセン軍と国家の問題点を把握できる場所にいたことは、本の執筆によい影響をもたらしたのだろう。シャルンホルストグナイゼナウらのプロイセン内部の改革派との関係についても、その重要性が指摘されている。

クラウゼヴィッツ個人について多くのことを知ることができるだけでなく、18世紀から19世紀におけるヨーロッパ史についても学べるところの多い本。『戦争論』をひさしぶりに再読してみようという気持ちがわいてきた。