負け犬の遠吠え

酒井順子『負け犬の遠吠え』、講談社文庫、2006

今頃読んでいるのもどうかと思うが、酒井順子は文体が好きではないので、これも読まないままだった。しかし読んでみるとこれはおもしろい。というか、いま読んでみるとおもしろい。単行本が出た(2003)直後に読んでいたとしたら、「自虐のふりした自慢かい」と思っていたかもしれない。

文庫版の著者あとがきを読むと納得するが、著者自身、40歳になってみると「35歳であの文章を書いたときは若かった」と述懐しているのである。もう著者も40代半ばで、あれはもう遠い昔のことと思っているかもしれない。

文庫版には林真理子が解説を書いているが、こちらは身も蓋もないことを言っただけで、単なるイヤミである。まあ林真理子はブサイクでも人生勝ちましたという側の人だから・・・。

30歳を過ぎて未婚、子ナシで負け犬という話は、この本が出た時点と比べて5歳、年齢の閾が上がったと思う。しかも35歳で未婚というようなことはもはやどうでもよくなり、40代半ばを過ぎて未婚、「生涯未婚率」のデータを構成する集団にあとひといきで、行く先は「無縁死」、の話が先に見えている人々にとっては、この本の内容は、ほとんどファンタジーみたいなものだろう。著者も「負け犬」の条件に「モテない」をあげておらず、巻末の座談会「オス負け犬がクヨクヨ吠えた」でも、この本で「ブス夫」と切り捨てられているモテない組のオス負け犬は入っていない。

まあ、そこそこ売れていて顔もまあまあの酒井順子が35歳の時に「てへっ」という調子で書いているから、読んでいるほうは「ハハハ」で済ませられるので、でなければこの本の辛辣なところはすべて割れたガラスのかけらみたいに読者にぐさぐさ突き刺さるだろう。というか、現実はすでに割れたガラスだとみなわかってしまっており、少子化も未婚率の高さもいっこうに変わらない。昔はこういうネタで笑えてよかったなあ、という本。