秘録 陸軍中野学校

畠山清行(保阪正康編)『秘録 陸軍中野学校』、新潮文庫、2003

これは畠山清行の「週刊サンケイ」誌上の連載、「秘密戦士 陸軍中野学校」をまとめて加筆出版された、畠山清行『秘録 陸軍中野学校』(正、続)、番町書房、1971を底本として、保阪正康が六十章の中から二十八章を選んで文庫化したもの。底本の約半分の分量に圧縮されていることになる。

畠山清行は本書の底本刊行後も取材を続けて全六巻の「陸軍中野学校」を1973年に刊行した、とあるので、底本のさらに三倍の分量の本があることになる。関係者による正式の校史「陸軍中野学校」は、1978年に関係者のみに配布する形で刊行されたことが紹介されているから、それが読めればかなりのことがわかるのだろうが、それは無理らしい。

「週刊サンケイ」の連載は、大映陸軍中野学校」シリーズ制作のきっかけになっているので、映画の江エピソードが事実のどの部分から取られているかがわかる。第1作「陸軍中野学校」での、入校者の選抜試験や、暗号書の撮影、第2作「雲一号指令」での工場爆破、第4作「密命」での要人宅潜入、第5作「開戦前夜」での敵諜報員の電波発信源追跡、などのエピソードの出典と書き換えのしかたがわかって、とても興味深かった。

全部で5編に分かれていて、諜報戦一般、学校での教育、開戦前の南方工作、開戦前後の諸工作、国内工作をそれぞれ取り上げている。それぞれのつながりはあまりないので、どこからでも簡単に読める。通読すると、諜報機関の必要性に対する認識ができたのがあまりに遅く、あらゆることが泥縄式で行われた印象はぬぐえない。イギリス、ドイツ、ソ連などの諜報工作に対してあらゆる面で先んじられていたことは否めない。

その条件でここまでやれたのは関係者の努力の成果だと見るか、諜報軽視のつけは埋めきれなかったと見るかは、見る側の人次第。また、中野学校関係者が、戦後もキャノン機関に関わったり、自衛隊や警察に散って諜報関係の仕事に関わり続けたことを考えれば、その方面の事実がもっと書いてあってもよいと思う。前述の関係者による校史は戦後のことは書かれていないということなので、なおさら。

番町書房刊の底本は図書館にあることがわかったので、とりあえずそちらから読んでみようと思う。

巻末に原著者の小伝がついていて、この本が書かれる経緯がわかるようになっていることは非常に助かる。また、各編ごとに編者解説がついていて、本書の内容についての異論や関係文献がついているのも親切で役に立つ。