公安検察

緒方重威『公安検察 私はなぜ、朝鮮総連ビル詐欺事件に関与したのか』、講談社、2009

朝鮮総連中央本部売却問題にからんだ詐欺容疑事件で逮捕、控訴審公判中(一審有罪判決)の、元公安調査庁長官、広島高検検事長の著者による手記。

半分は、自分の半生についての自叙伝で、公安畑の検事の仕事としておもしろいことが書いてあるかと思ったのだが、たいしたことは書いていない。かなりがっかり。ただ、騒擾罪を適用するような大規模な騒擾事件に関しては、検事が実際に現場に出て適用の判断を出していることがわかった程度。

ほんとうは、公安調査庁での経験や、東京地検公安部と警視庁公安部との具体的な連携の方法などに関心があったのだが、そういう部分は保秘に触れるらしく、ほとんど書いていない。

おもしろかったのは、高検検事長認証官)になった時の経験を非常に感激をもって述懐していること。各省事務次官でも天皇陛下認証官という地位にはいないのだから、検事がこのポスト(というか認証官という象徴的な地位)にいかに執着しているかがわかる。役人の心理というのはこういうものねという感じ。

後は、総連本部売却事件にからんだ自己弁護。まあ、「国策捜査ではめられた!」という著者の憤懣はわからないでもないが、自分のやった手続きに手抜かりがあった以上は泣いてもしかたがない。また、同じ事件で逮捕された不動産業者の満井忠男との関係については率直に書かれているが、はっきりいってワキが甘いとしか思われない。こういう人物でも諜報機関のトップが務まるのだから、ちょろいものだなあと思う。

検察の裏金事件で逮捕、起訴された三井環、元大阪高検公安部長に比べると、同じ「はめられた」口でも、こちらにはまったく同情心がわかない。とにかく甘い人物だとしか思われない。