彷徨える艦隊 旗艦ドーントレス

ジャック・キャンベル(月岡小穂訳)『彷徨える艦隊 旗艦ドーントレス』、早川文庫SF、2008

これはアタリ。宇宙戦争もののSFだが、戦争のやり方は、帆船時代の海戦のようだ。高速で移動するため、リアルタイムで通信や指揮ができない、本星からは遠く離れていて連絡はとれない、自軍の艦隊は敵の本拠地に直接攻撃をかけたがそれは敵の罠で、艦隊は大損害を受け、講和交渉のために敵旗艦に出向いた自軍の司令官はあっさり殺されてしまう。

主人公は100年前の英雄で、救命ポッドでコールドスリープしていて、艦隊に拾われたばかり。しかし艦隊では最先任の大佐だったため、司令官の指名で艦隊司令官代理になる。司令官が死んでしまったために、主人公は艦隊をまとめて母星に帰らなければならない。特に旗艦ドーントレスには、これを持ち帰れば戦争に勝ったも同然になる機密装置が積み込まれている。なんとしてもこれを母星に持ち帰らなければならない。

昔の伝説のおかげで、主人公は艦隊士官たちから英雄視されているが、一部の士官は主人公の言うことを聞かない。また艦隊には同盟国の星系艦隊も加わっていて、その部隊は交渉で納得させないということを聞かない。こういう何重もの制約がかかっている状態で、主人公は艦隊の士気を維持し、部下を従わせ、敵の追撃を逃れて、艦隊を連れ帰らなければならない。

敵は人間のようだが、戦争がはじまった理由は不明(もう100年も戦争は続いていて、経験のある士官たちはみな死んでしまっている)、未知の異星人の存在がにおわされているが、そのあたりも続く巻への伏線になっているので、ネタバレはされていない。

著者はもともと米海軍の士官で、途中で作家にキャリアを変えた人だそうだ。艦隊内部での上官と部下の関係は非常にリアルで、海軍の古い歴史にも通暁している。まさにこの小説の著者として当を得た人物。5巻まで翻訳があるようなので(まだ完結はしていない)、これから残りの巻を読んでいくのがとてもたのしみ。