ネット評判社会

山岸俊男、吉開範章『ネット評判社会』、NTT出版、2009

非常におもしろい本。著者は、まず取引(社会関係全般に拡張してもよい)で相手を信用できることを確保するしくみとして二つのモデルを考える。一つが、集団を外から閉鎖して、ウソつきに悪評をかぶせ、しかもウソつきが外の世界に逃げられないようにしておく「集団主義秩序」。もう一つが、集団を外に開放しておいて、ウソつきに法律や司法制度で懲罰を与え、それによって信頼性を確保する「個人主義秩序」。

インターネット社会においては、明らかに「集団主義秩序」の方法はとれないので、個人主義のほうをとらざるを得ないのだが、司法制度による懲罰だけでは、取引相手の信頼性を担保する方法は確実なものにならない。そこで、個人に対する社会的評価の指標としての「評判」が確立されている必要があるが、問題はどうすれば公正な「評判」を構築できるか、「捨てID」を使って悪い評判をリセットして詐欺を繰り返すような人間に対してどのように対応すべきか、等々いろいろある。

こういう問題に対応する方法が、実験やさまざまな考察によって展開されているが、どの章もよく考え抜かれていて、知的興奮の多い本。個人的には、日本人が中国人に比べ、他人に対する信頼をほとんどもたないのはなぜか、という問題に対する検討が興味深かった。著者らの仮説もだいたい納得がいった。

著者は、新しいテクノロジーを利用した、「誰もが自発的に自分の評判を公開しようとする(せざるを得なくなる)」社会をユビキタス評判社会と名付けて、そのような社会の到来を展望するのだが、それが居心地がいいかどうかは微妙。

自分としては、匿名性(このブログもそうだが)と顕名性(ネット取引ではこちらの方がいいだろう)が適切に共存する社会が居心地がよさそうな気がするのだが・・・。