マタンゴ

マタンゴ」、久保明水野久美、土屋嘉男ほか出演、本多猪四郎監督、東宝、1963

12月に日本映画専門チャンネルでかかっていた変身人間ものの一本、やっと見られた。これまで話だけはいろいろ目にしていて、実物を見ていなかったので非常にうれしい。

そしてやっぱりこれはおもしろい。ほかの変身人間ものにない「怖さ」がここにはちゃんとある。というか、「怖いということはどういうことか」「人間にとって怖いものは何か」をよく考えてつくってあるということだろう。

マタンゴ化した人間がウヨウヨ出てくるのは最後の方だが、怖さの元を隠して最後まで話をひっぱっているのではない。キノコを食べるとキノコになっちゃうよという話は、かなり始めのほうでちゃんとばらしてある。それがわかっていて、みなキノコを食べるのである。しかも食べるものがなくなってしかたなく、というのでもなく、まだ缶詰が残っているうちにキノコに手を出している。

ちょっと考えて、キノコを生で食べておいしいとは思えないのだが、この映画を見ていると、「キノコ丸かじり」が非常においしそうに見えてくるところが上手いと思う。水野久美がキノコをむしゃむしゃやりながら「おいしいわぁ」を連発している場面は、水野久美本人のエロ度が高いことも手伝って、怖さ、エロ度の両面でポイント高し。無人島に漂着しておいて、アイシャドウ塗りまくりのその化粧はないでしょ、という話はひとまず措く。

土屋嘉男や太刀川寛らが、欲望丸出しになるところもいいが、初めは猫も殺さないような顔をしていた八代美紀がなんだかんだいって、結局はむしゃむしゃやってしまうあたりもいい。久保明マタンゴ人間に囲まれながら、なぜかそのまま帰ってきて、キチガイ扱いされたあげく、キノコは食べてないのに半分キノコ化というオチは、救いようがない感じで、これまた非常によし。

これはちゃんと原作があるそうで、地元図書館で検索してみたら、W.H.ホジスン(井辻朱美訳)『夜の声』、東京創元社、1985、がそれらしい。まさかキノコ人間の設定はないと思うが、かなり興味がわいてきたので、今度借りてみることにする。