鉄砲と日本人

鈴木眞哉『鉄砲と日本人 「鉄砲神話」が隠してきたこと』、ちくま学芸文庫、2000

戦国時代の鉄砲伝来から説き起こして、戦国期における実際の鉄砲の使用法、江戸時代における鉄砲の用例、幕末期における変化から、帝国陸軍における「白兵主義」までひととおり、日本人と鉄砲の関係を考察した好著。

従来鉄砲について言われてきたこと、つまり騎馬戦術から歩兵戦術への変化、山城から平城への変化は鉄砲の普及とは関係なく、天下一統への道を鉄砲が開いたとの説は全く誤っていたとする。また長篠(設楽原)の戦における「信長軍による鉄砲三段撃ちによる武田騎馬隊の惨敗」も、講談に尾ひれがついたレベルの妄説にすぎないと断じる。

「長篠の三千丁の鉄砲による三段撃ち」という話は信憑性が低いという話は聞いてはいたが、このようにはっきり否定されると、逆に痛快ですらある。騎馬隊の乗馬突撃など、当時はありえないという説も納得。鉄砲は、それ以前からあった弓矢による遠戦志向をさらに強めただけであって、だからこそ容易に普及したという話も、戦国時代を扱った映画やテレビの映像がまったく実際とはかけ離れていたことを主張する。

江戸期においても、民間の鉄砲が完全に没収されたことなどなかったし、刀が鉄砲の集中使用に勝てないことなど当時でも常識という話もそうだろう。幕末以前の鉄砲や戦術については、あまり根拠のない話を自分でもなんとなく信じていたことがわかっただけでも十分に収穫になった。

著者はアマチュアの歴史家だが、史料は博捜しており、論証は緻密。プロの歴史家でも間違いはあるところにはあるということを再認識させてくれる。