ハーバードビジネススクール 不幸な人間の製造工場

フィリップ・デルヴス・グロートン(岩瀬大輔監訳、吉澤康子訳)『ハーバードビジネススクール 不幸な人間の製造工場』、日経BP社、2009

ハーバードビジネススクールの在学記。著者はバングラデシュ生まれのイギリス人。入学前にデーリーテレグラフ紙の記者でジャーナリストとしてのキャリアがあり、入学時に30歳代になっている。これはHBSの入学年齢としては「やや遅すぎる」らしい。多くの入学者は20歳代半ばで入学し、それから金融やIT系の有力企業に就職していくのが、HBSのエリートコースということになる。

入学前の準備についてはほとんど書かれておらず、入学後の教育課程、学生生活、就職活動などに紙幅が割かれている。それでもGMATの点数は非常に高いので相当な準備をしたのだろう。もちろん入学後の勉強も厳しく、一週間に50時間以上勉強するのは当然の世界。しかし、学生は入学前からその程度の仕事量は当たり前にこなしているので、特別に厳しいとは感じていないのだという。また入学後に成績下位の学生に対してもていねいに指導と支援が行われるので、自分から学業を放棄する者以外、ドロップアウトする者はあまりいないという。まあアメリカの私立名門大学では一般的な話。

最も詳しく書かれているのは教育内容で、著者が履修したそれぞれの科目で、何が教えられ、どんなケースが与えられ、学生が何を要求されているかがよくわかるようになっている。よい意思決定の方法をどのように教育するかという課題が、高いレベルで追求されており、著者自身もそこから多くのものを得たことは率直に認めている。

しかし一方で著者は、HBSにおける教育が作り出している学生には批判的である。要するにどれだけ大金を稼げるかにしか関心がない人間を社会に送り出しているというもの。HBS当局は世界でリーダーシップを取れるビジネスリーダーの育成を掲げているが、その結果は社会的に広い視野をもったリーダーというよりは、数字がすべての決定を左右すると考える拝金主義者を量産するということになっているようだ。

副題「不幸な人間の量産工場」は、章題の一つから取っているのでまちがいとはいえないが、この本の全体の論旨を代表するものとはいえず、やや極端な印象を与える。