蒙古襲来

新井孝重『蒙古襲来 戦争の日本史7』、吉川弘文館、2007

元寇」についての一般向けの本。ただし著者は元寇という言葉は使っていない。そもそも著者の立場では、当時の日本は「国家」としての体を成しておらず、存在したのは御家人制を軸とする人的結合と荘園制を軸とする寺社権門体制だけだとしているので、日本対モンゴルという図式を立てていない。

日本とモンゴルの兵制、戦法の違い、鎌倉による本所一円地を含みこんだ防衛体制の形成、惣領の討ち死にによる相続争い、軍功の認定、祈祷、調伏の方法などが順を追ってまとめられており、読んでいておももしろい。特に以前読んだ本では、鎌倉の硬直的な外交姿勢とモンゴルに対する無為無策や九州、防長の御家人しか動員していないことを強調していたので、それをうのみにしていたが、本所一円地の武士の動員、鎌倉による御家人の再編成などが、後の国家形成への萌芽的な動きになっていたことがわかって、その部分は勉強になった。また、当時の南宋と日本での船の建造技術における違い、日本の技術では外洋を航海する船をつくれず、従って高麗への反攻作戦も現実にはできなかったこと、はこの本ではじめて知った。

日本人の外界への閉鎖的な観念や神国日本概念の後代への影響をしつこく強調して、「アジアとのつながり」にことさら目を向けさせようとしているあたりはしつこいが、鎌倉期の国家と社会を知る上で役に立つ本。