アイドル万華鏡

辛酸なめ子『アイドル万華鏡』、コアマガジン、2005

辛酸なめ子の本の中でも一番毒がキツイ本。特に女性アイドルばかりを扱った、前半の「夢想編」がキツイ。辛酸なめ子の本は、あたりさわりのなさそうな表現のそこかしこに皮肉がちりばめられているというものが多いが、これははっきりいって悪口である。下ネタも容赦なし。初出はどこだろうとおもって、巻末を見ると、「BUBKA」と「裏BUBKA」。なるほど、まあ納得。

けっこう今でも活躍している人も多いが、自分が女性アイドルにあまり詳しくないのもあって、鈴木亜美とか、仲根かすみとか、松本莉緒とか、この人はどこでどうしてるの?という人もちらほら。しかし売れてる人にも、そうでない人にも、辛酸なめ子の視線はなめるように細かい。「ヨコモレ通信」のどっちかというとどうでもよさげな視線とは大違いで、ここまでいろんなアイドルを細かく見るかなふつう、という感じの細かい書き込みが際だつ。後でネットや本で調べただけではわからないようなこともたくさん出ている。

後半の「実録編」で取り上げているのが、美川憲一ハローキティt.A.t.u.ダライラマ14世等々で、t.A.t.u.とか松田聖子なんかを除けば、「夢想編」の女性アイドルに対して見せるほどの情熱は感じられない。まあ、今話題の押尾学なんかも出ていて、なかなか笑えたりするのだが。女性アイドルに対する並ではない入れ込みようが感じられる。

そういうわけで書き方のキツイ本ではあるが、辛酸なめ子の本の中では一番おもしろい部類に入ると思う(個人的には一番おもしろいのは、半自伝小説の「知恵熱」「男性不信」)。辛酸なめ子はその特殊な妄想がおもしろいので、妄想をストレートに向けられる題材で書いているときが本領を発揮できるのだろう。文藝春秋とか、誰でも読むようなメディアよりも、BUBKAのようなマイナーな媒体で、どんどん妄想をふくらませてほしいと思う。