SS-GB

レン・デイトン後藤安彦訳)『SS-GB』、早川書房、1980

レン・デイトンの小説を読むのはこれがはじめてなのだが、文句なしの傑作である。舞台は1941年のイギリス。イギリスはドイツに敗北し、ブリテン島はドイツの占領下にあるという設定。主人公はロンドン警視庁の警視アーチャー。彼と上司のSSイギリス駐在部隊と警察機構の責任者ケラーマン少将、それにベルリンから派遣されてきたヒムラー直属のフート大佐、アーチャーの部下の巡査部長ウッズといった人々がからむ。中心的なできごとは、イギリスの原爆開発計画の資料を奪おうとするフートの計画、さらにそれを出し抜いて資料をアメリカに引き渡そうとするイギリスのレジスタンス、さらにイギリス国王を拉致してアメリカに亡命させようとする計画が重なる。それに、ドイツ軍内部でのケラーマンとフートの対立、親衛隊、陸軍、国防軍諜報部の複雑な関係、占領されたイギリスの様子などがからむ。

いろんな設定と多くの登場人物を出しながら、話の筋はきちんとしていて、揺るぎがない。また展開はめまぐるしく、最後の最後まで読まないと結末がわからない。ドイツの占領組織や官僚機構内部の描写など、細かい点の描写が緻密。よほどの知識と筆力がないと書けない話である。最後は楽観的な結末を予想していたのだが、こう来るか・・・という感じ。読んでいて作品のできばえに快い敗北感を味わえるような小説。実はデイトンの『爆撃機』『電撃戦』(こちらはノンフィクション)は買ったままで放置しているのだが、これをぜひ読まねば。それに本業のスパイ小説のほうも、おいおい借りて読んでいこう。まだ存命のようだが、まだ創作活動は続けているのだろうか。この時代を背景にしたこれだけの小説は日本では書ける人がいないから、非常に貴重な作家である。