自由はどこまで可能か

森村進『自由はどこまで可能か リバタリアニズム入門』、講談社現代新書、2001

日本ではあまり人気のないリバタリアニズム。すでに評価が高い本だが、この本はリバタリアニズムの紹介にとどまらず、リバタリアンの革命宣言書のようなもの。著者は、自身がリバタリアンであることを公言していて、その主張を現実の世界で実現すべきだと明言している。明晰であるだけでなく、非常に戦闘的な本。

この本の最初の図式設定のところでも説明されているが、日本における「左右」「保守-リベラル」の対立軸が思想的にはぜんぜん一貫していないことが指摘される。著者はあくまでも個人の権利を擁護する立場を貫徹するが、強い自由擁護の姿勢が一般にいう「リベラル」とはまったく違うことが強調される。また保守派のパターナリズム共同体主義ともリバタリアンは共存できない。

リバタリアニズムの哲学的基礎である「自己所有権」がていねいに説明された後で、司法制度、国家、社会、市場に対する見方、家族制度、財政政策、社会制度の計画的設計、リバタリアニズムへの批判と応答が順に検討される。いずれもリバタリアンのさまざまな論者の立場がわかりやすく紹介された後で、著者の立場が明確に示されており、同じ問題をリバタリアンのさまざまな立場がどのように扱っているかがよくわかる。

一読して、特に現在の日本の政治的、社会的対立軸がいかに脆弱な基盤に乗っているのかがよくわかる。ことなる政策や制度に対して一貫した立場がないのである。そこにあるのはこれまでの成り行きと、論敵への対抗上やむなくできてしまった立場ばかり。これでは知的緊張感など生まれようがない。政治家もそうだが、言論に関わる者が、「自分の立場の思想的一貫性」に十分な注意を払わない社会は基本的にダメである。自分自身もこの本によって、「いかにいい加減な根拠に基づいて主張を作ってきたか」を思い知らされた。立場にかかわりなく、社会問題の基礎を考えようとする人々が読むべき本。