松風の家

宮尾登美子『松風の家』上、下、文藝春秋、1989

明治から大正期にかけての裏千家のおはなし。江戸期の大名付き師範の地位が消えてしまい、世の中が茶道どころではなくなって、家は零落、破産寸前になった「後之伴家」が、一般人や学校での行儀作法として茶を普及させることで立ち直っていくというもの。どこまでが実際の裏千家の事跡を反映しているのか、素人にはよくわからないが、この時期に江戸期から続いていた名家がバタバタ没落して、そのまま埋もれていったことを考えれば、裏千家が家勢を盛り返せたことには並々ならぬ苦労があったことが読み取れる。

主人公は、家元の子ではあるが本妻の子ではなく「隅倉家」の系統になる「隅倉由良子」。内容はあいかわらずの宮尾節で、主人公が、貧しいのにやたらしきたりにうるさい家人の間で苦労しながら、陰から家元を支えて家を再建していくというもの。京都人の「イケズ」なところの描写は細かいところをていねいに書いてあって、読んでいて非常に納得。仙台から来た嫁がネチネチいじめられるあたりも、さもあろうという感じ。まあ、こういうイケズな人たちが充満している土地だから、茶道家元などというものが今日でも権威を振り回していられるのだろう。こういう人たちを描ききったことだけでも、読む価値のある本。