黒薔薇の館

「黒薔薇の館」、丸山明宏、小沢栄太郎田村正和ほか出演、深作欣二監督、松竹、1969

前年の「黒蜥蜴」に続く、丸山明宏、深作欣二コンビの二作目。といっても、わたしはまだ「黒蜥蜴」を見たことがない。こちらはなぜか映画館で一本立てでかかっていた。美輪明宏小沢栄太郎深作欣二と来れば見ないわけにはいかない。

お話は会社のオーナーで資産家の小沢栄太郎が所有するクラブ(というか、会員制のサロンみたいなものか)にいきなり美輪明宏が現れる。そのうち、夫だという西村晃とか、元の恋人だという川津祐介内田良平とかが現れて美輪明宏相手に戻ってくれと愁嘆場を演じ、そのうち川津は自殺、内田は美輪の連れていた混血の少年(城アキラ)と刃物で渡り合ったあげくに二人とも死んでしまう。そうしていると小沢栄太郎の放蕩息子の田村正和が現れ、その頃小沢の愛人になっていた美輪をくどき出す。とうとう口説きおおせて駆け落ちしようとする田村は、麻薬取引の金を強奪して警官に撃たれ、そのまま小沢を振り切り、モーターボートで美輪といっしょに沖の外航船までたどり着いてそれで逃げようとするが、外航船に衝突して爆死、というとんでもないもの。

とにかく登場人物の台詞がすごく、前半にサロンに出没する男達(みな紳士名士だが)が美輪を称えるところは、シェークスピアものけぞるような代物。これ、脚本も深作が入っているのだが、こういうものを素面で書くか?と疑うような美輪賛歌がえんえんと続く。とにかく美輪ひとりのために作ったような映画で、歌いまくり、踊りまくり、台詞も美輪の部分に関してはそんなに違和感なく耳に入ってしまうところがおそろしい。わたしは下を向いて笑いをこらえていたが、劇場の他の客はみな真剣に画面を見ていた。まじですか。

逆にほかの役者はぱっとしない。せっかくの小沢栄太郎すらあまり貫禄を感じさせない。田村正和の強盗とその後の爆死シーンは失笑を禁じ得ない。他も、SGMの御手洗博士こと宇佐見惇也、小松方正室田日出男ほか渋すぎの配役なのだが、とにかく美輪一人が異様に存在感を発揮していてぜんぜん目立ちようがない。美輪明宏は60年代から立ち位置がぜんぜん変わってないということが驚き。深作欣二がこんな映画を撮っていたということにも驚く。出演者でいまでも存命なのは、美輪、田村のほかは松岡きっこくらいだと思うが、美輪明宏はあと50年くらいは生きているのではないだろうか。おそろしい。