スパイと公安警察

泉修三『スパイと公安警察 実録・ある公安警部の30年』、バジリコ、2009

警視庁で公安畑を歩き続けた警察官の回想録。交番配属から、公安に引き抜かれて、警視庁公安部のソ連担当、北朝鮮担当、内閣調査室、右翼担当、過激派担当、国際テロ担当、と公安警察のひととおりの部署はみな経験している。

捜査の方法、スパイの手口については細かく書かれていて、その部分はおもしろい。著者は自分が「120%の力で仕事をした」といっているが、確かに並でない集中力とエネルギーで仕事に打ち込む人らしい。昔の記憶もあいまいでなく、細部がよく書かれている。北朝鮮関連では、「土台人」と著者が言う、北朝鮮に親族がいる在日朝鮮人北朝鮮工作員の関係について、書かれている。著者は拉致事件についても、この「土台人」が拉致工作に関係したはずだと推測しているが、おそらくそうなのだろう。工作船から上陸してきて、何の目当てもなく適当にその辺にいる人をさらっていったというのはおかしい。事前にそれなりの下調べができていないとろくに上陸もできないはずで、在日朝鮮人が協力していなければ無理だろう。

仕事に打ち込んだ著者も神経を病んで、96年に早期退職。この本を書くまでに12年あまりの時間があったことになるが、仕事柄、細かい日記をつけていたとも思えないのに、ここまで書いている。基本、集中力があって頭もいい人でないとこの分野できちんとした仕事はできないものらしい。