中国の仮面資本主義

ティエリー・ウォルトン(橘明美訳)『中国の仮面資本主義 党エリートに壟断される経済と社会』、日経BP社、2008

原題は、"Le Grand Bluff Chinois" だから、中国の大いなるハッタリというような感じか。著者はジャーナリストで、共産圏(ソ連圏)をフィールドにしていた人。この本は現地を取材するのではなく、文書や統計情報に基づいて書いた、と著者まえがきにある。

結論は、中国の成長はその大部分が見せかけ、ハッタリであり、実際には労働力の工業分野への大規模な移転と、安い賃金を利用した国家ぐるみの「組み立て工場化」が成長率を押し上げているにすぎない、というもの。人口成長の鈍化と高齢化で労働力の成長はいずれは止まり、研究開発投資が不十分なので、今後も現在の成長が継続し続けることは期待できない。何より、中国にあるのは、資本主義ではなく、共産党独裁政権下で、富を特権階級に吸い上げる仕組みであり、このようなやり方自体が早晩行き詰まる、といっている。

内容がどの程度妥当かどうかについては、これだけではちょっと判断できないのだが、中国のいびつな経済構造の下では、成長率7%が大きな分岐点で、これを下回ると社会全体としては経済停滞を引き起こす、という指摘はなるほどと思った。他のソースを引用しながら、著者は中国での7%成長はアメリカでの3%成長に相当するといっている。これ以下だと失業者が大幅に増大するので、社会的に非常に大きな問題を引き起こすという。中国は、大規模な財政支出で景気底上げに必死だが、それも納得。

ほかに、国民の10%、1億3000万人が貧困層だとか、失業率の正確な統計がないが、おそらく12%から30%の間と見られるとか、いろいろなことが書いてある。継続的な外国からの資本流入がなければ、成長率の維持は困難だ、とも。

この主張をどう評価するかはさておき、中国の社会経済についての統計数字は相当注意してみなければいけないようだ。

こういう性格の本としては、訳者または専門家による解題がないことは不満。せめて著者紹介はちゃんとつけておいてほしかった。