イワンの馬鹿

レフ・トルストイ(北御門二郎訳)『イワンの馬鹿』、あすなろ書房、2006

いまごろこんな本を読んでいるのもどうかと思うが、よくごはんを食べている店の本棚にあるのは、こんな本(あと、マザーテレサの伝記とか、百匹目のサルとか)ばっかりなので、ついつい読んでしまうことになる。

まあ、いかにもトルストイという感じの農本主義原始共産制ユートピアの話。兄のセミヨンとタラスの失敗はこんなものでしょうという感じだが、イワンに幸福がもたらされる結末のところ(特に軍隊がせめてきたり、商人が金で籠絡しにきたりする部分)は、ちょっとやりすぎでしょ、と思う。それはトルストイだからいいけど、わたしは農本主義原始共産制ユートピアも全部嫌いなので、あんまり好きになれない。それに、なぜセミヨンやタラスのような人間はたくさんいるのに、イワンのような人間はほとんどいないのかについて真剣に考えていないようでは、寓話としてもうまくできているとは思えない。

訳者はほんもののトルストイ主義者で、戦前に兵役を拒否して、その後独学でロシア語を学んでトルストイを訳したというから、大したものである。それにこの本を最初に「イワンのばか」と訳したのは誰だろう。「馬鹿者イワン」のほうがふつうの訳だと思うが、この訳題はうまい。この題のセンスのよさにひかれて読んでしまう子どもも多いのではないだろうか。原題は、「イヴァン=ドゥラーク」だから、どっちでもいいのだが。