近代日本の軍事戦略概史

黒川雄三『近代日本の軍事戦略概史』、芙蓉書房出版、2003

明治から平成に至るまでの日本の軍事戦略を概説した本。あくまで概説なので、従来の研究史に対する位置づけとか、論争への参加というようなことは内容に含まれていない。また敗戦後、現在までの部分は(ある意味しかたないが)、薄い。計画だけで実地のテストにさらされていないから評価できないという面もあるからかもしれないが。

しかし、明治から第二次大戦までの日本の軍事戦略(特に「国防方針」)は、問題だらけだということはよくわかる。陸海軍は自己の方針を主張して譲らないので、できたものは常に折衷案。しかも統合計画になっていない。長期戦の用意がないので、いつも「短期決戦、殲滅、攻勢」主義で、それがうまくいかなかった場合に対する準備がない。石原莞爾のいうとおり、「作戦計画はあるが、戦争計画がない」のである。これで対米戦に打って出たのが不思議だが、服部卓四郎の回想では、「ドイツが欧州で勝ってくれるはずだった」「海軍がもっと持ちこたえてくれるはずだった」「船舶の損失がこれほどひどいとは予想できなかった」となっているが、これらが期待通りにいかないだろうことは、すべて戦前に一部の軍人から指摘されていたことで、結局陸軍は自前の対米戦計画をもっていなかったということである。

さらに著者は、最大の問題として近代戦に対する準備がなかったことを指摘する。旧式で戦術にも劣った中国軍相手の戦争しか想定しておらず、最初から近代化された軍隊と戦う用意がなかったということである。しかも、そのことがあらかじめわかっていながら、何も対策を打っていなかったのは致命的。また情勢の変化に応じて、既存のドクトリンや計画を変えることができなかったことで、ほとんど負けは決まっていたようなもの。連合国もさぞあきれていたことだろう。