金正日の正体

重村智計金正日の正体』、講談社現代新書、2008

金正日重病、死亡説がかまびすしかった2008年8月に、この問題を検討した本。いろいろなエピソードが載っているが、はっきりいってどのエピソードが事実で、どれが事実でないか、何とも言えないような、あやふやな話が多い。情報源が明かせないのは仕方がないとしても、他の信頼できるソースとの照合なしに、「信頼できる人物から聞いたところによると・・・」と言われても、それだけでは信じられない。出版が急を要したために、十分咀嚼しないでいろいろなストーリーを盛り込んだのではないか。著者はクロスチェックは済ませているというが、読者からすれば一方的な話をされても困る。

一例として金正日が「落馬で負傷した」という話が紹介されているが、現在、韓国やアメリカは「脳卒中」だったと発表しているのだから、この話自体が疑わしい。正確さに疑問がある話なら、そのようにことわった上で紹介すべきであり、この本の書き方では、本の内容全体について信憑性に疑問をつけられても仕方がないだろう。

最後のところでは、静岡県立大学の伊豆見元とおぼしき人物(「NHKにしばしば出演するS大教授」という書き方)への個人攻撃がある。批判があれば、名前を出してはっきり言えばいいのであり、こういう書き方は見苦しい。

著者の本はこれまでいくつも読んでいるが、この本の仕事はかなり荒れていると思う。