童貞放浪記

小谷野敦『童貞放浪記』、幻冬舎、2008

小谷野「あっちゃん」の、こっちは小説。小谷野の小説は基本的に私小説だが、読んでいるほうはおもしろければなんでもいいのである。三編の短編で一冊になっている。表題作「童貞放浪記」は、ストリップの詳細な描写があって、著者の切ない時代を思って笑ってしまう。これは映画化されるとのことなのだが、この短編をどうやって映画にするのか?ほかの短編その他からいろいろと材料をとってきてつなぎ合わせるのだと思うが、出来が心配になる。

次の「黒髪の匂う女」が一番おもしろい。結婚生活と、主人公と同じく学者をやっている先輩の女性との情事の話がまじっているのだが、さすがに結婚生活をそのまま小説にするわけにはいかないので、手を入れたのだろう。もちろんどこまで脚色で、どこまでが事実かは知りようがないのだが、あっちゃんの結婚生活の記憶が生々しく伝わってきて、読んでいるこっちがたじろぎそうになる。

「ミゼラブル・ハイスクール一九七八」は、高校時代の経験を小説にしたもの。しかしこれはぜんぜんおもしろくない。女性関係の話が出ないせいかもしれない。

私小説と言っても小説だから、そこから作者の私生活を類推するのは本来禁じ手だが、あっちゃんの場合は、他の情報源(雑誌記事や本人による別の手記)と組み合わせると、著者の生活がおおよそ想像がついてしまうのである。こうやってばらしちゃっていいのかなあ。『帰ってきたもてない男』には、「元妻の弁護士から、結婚生活のことを書いたら訴える、と言われているのでそれは書かない」と書いていたはずだが、どうなったのだろうか。小谷野ファンには外せない一冊といえる。